大阪フィルハーモニー交響楽団 主席オーボエ奏者
浅川和宏さん寄稿
皆さんもご想像の通り、楽器の演奏には相当器用に、また正確に早く動く手指と、長時間の演奏にも耐えるように疲れに対処するすべが必要です。
私は長年、オーボエという管楽器のプロとして演奏に携わって来ました。
ところが10年程前でしょうか、どうも思ったように手指に力が入らない、動きがアバウトになってしまう、といった症状に悩まされ始めたのです。
「これはたいへんなことになった。」
私は自分の考えつく限り、良いと思われることはすべて試しました。
もちろん病院もいくつも受診し、中でもある有名病院ではジストニアと診断されてしまいました。
ジストニアというのは脳の病気です。
それからは苦悩の連続でした。
楽器の演奏に必要な運動性を初歩から立て直すべく、特別に考えたプログラムに沿って本当に信じられないほど根気づよく練習を続けました。
なかなか出口が見つからない中、心療内科で心のケアをする必要にすら、せまられました。
しかし、私には「自分はジストニアなんかじゃない、必ず克服してみせる」という自信がどこかにありました。
そして、これならばお客様の前で演奏しても大丈夫、という段階に達したと思えた時、私は現場に復帰しました。
が、それ以降もたいへんな労力と時間を割いて注意深い練習と入念な準備をすることが欠かせませんでした。
そんなある日、妻が仲谷鍼灸整骨院の先生が大リーグの選手に治療を施し、首尾よく復帰させてあげた、という記事を持って帰って来ました。
ピアニストで、やはり練習後の肩や腕の痛みに悩んでいた妻は、最初は興味はあるが鍼が恐い、と言っていましたが、電話をしてみると
「気の流れを良くするために最小限、使うのですよ」
と親切に説明して下さったとかで、思いきって治療を受けに行って来ました。
彼女の驚きは見ていておもしろいほどでした。
「肩こりがないって生まれてはじめて!」
もちろんピアノにも良い効果が出ている様子です。
私は自分の予約の電話をするのに躊躇はありませんでした。
それからです、私の演奏家人生に再び明るい兆しが見えて来たのは。
一回目の施術で肩の凝りが非常に軽減されました。
そして、回を追うごとに演奏時の疲れが格段に軽減されていったのです。
「障害が取り除かれた」という感覚でした。
もっとも、それに伴って、良い奏法を再構築する必要がありましたが、それは喜びを伴う作業でもありました。
何より私を勇気づけてくれたのは
「浅川さん、これはジストニアではありませんよ。」
という仲谷先生の言葉でした。
先生の、原因と結果についての説明は非常に得心のいくものでした。何より、実際に思い通りに指が動くようになって来たのです。
「やはり自分の思っていたとおりだった、あきらめなくて本当によかった」と感じました。
今、私は自分の演奏の歴史を振り返ってみて、新しい段階に入ってきているという実感を持っています。
手指の繊細な感覚が戻り、指の巧緻性が向上している現在、より幅広い表現力を求めて新たな技術を獲得する愉しみを味わうことができるまでになりました。
そして、より自分の音楽性のほうに目を向け、以前よりも深い表現を追究することが可能になった気がするのです。
これらのことは、すべて仲谷先生のおかげをおいて他にはあり得ません。
先生には多大な感謝をするとともに、もし、私と同じように身体のことでお困りの演奏家の方がいらっしゃったら、ぜひ、受診なさるようおすすめ致します。
私自身の経験から申し上げます。きっと世界が変わります。
浅川和宏